説話「傘のさしかた」

「傘ひとつ 片方は濡れる 時雨(しぐれ)かな」
歩き方を示唆した句です。天候は雨。なかなか止みそうにありません。二人で傘は一つしかありませんから、どうしても片方は濡れてしまいます。さてそこで、傘をどのようにさすかが問題なのです。
一、自分一人傘をさしてすたこらさっさと行ってしまう。置いて行かれた人はずぶ濡れになります。これも片方は濡れるわけです。(手前勝手型)
二、相手に傘を全面的にさしかけます。これだと相手は濡れませんが、自分はびしょ濡れになります。(自己犠牲型)
三、傘を真中にして、寄り添うようにさします。俗にいう相合傘です。これも傘からお互いの外側の袖がはみ出して、片方の袖は濡れます。(相思相愛型)
いろいろなさしようがありますが、どうさしてみたとて片方は濡れてしまいます。「傘は一本だ」と諦めねばなりません。この句は、現実世界は堪え忍ぶことも大切ですという戒めを言ったものです。
「こころと命の相談室」快栄寺(eお坊さんねっと)説話集より
参考:「天台宗法話集より抜粋・編集