説話「自分を大切にすることとは」

古代インドのコーサラ国王のパセナーデ王は、妃に「世の中で何を最も愛しいと思っているか」と聞きました。すると妃のマリカはためらいもなく「私がこの世で最も愛しいと思っているのは、自分です」と正直に答えたのです。それを聞いて夫のパセナーデ王は、少しガッカリした様子でしたが、「マリカよ、その通りかもしれない。実は私も、自分自身が一番愛しい」と答えました。
その後二人は釈尊のもとに行き「お釈迦さま、あなたは私たちにいつも、自我を捨てよ、とお説きになりますが、私たちはそれぞれ自分が愛しいので、どうしても自我を捨てることができません」。すると釈尊は二人に向かって「あなたたちの悩みは尤もなことである。自分を一番愛しいと思うことは、人間にとって当たり前のことなのだよ。ただし、それに気がついたら、他人の自我も自分同様に大切にしなければならないのだ。すなわち他人の心を傷つけたり、又他人を殺したりしてはならないのだ」と諭されたのでした。
「こころと命の相談室」快栄寺(eお坊さんねっと)説話集より
参考:「天台宗法話集より抜粋・編集