品質不良との戦い

30数年前、ある地方銀行のバンキングシステムのソフトウエア開発に携わっていたとき、「有相無相(うそうむそう)」という言葉に出会いました。
一般にソフトウエア開発は、設計を行い(設計工程)、設計に従ってプログラムを作成し(製造・テスト工程)、プログラムの動作をテストする(試験・検証工程)の手順で行います。
バンキングシステムは作業規模も膨大で、携わる人の数も半端ではなく、当該システムでは専従者のみで500人以上(これは少ないほうで、この数倍以上のプロジェクトが多くあります)が携わっていました。
テスト工程に入ったのですが、不具合(不良とかバグといいます)ばかりがどんどん出てきて、テスト目の確認(チェック項目の消化)は遅々として進まないという状態が何日も続いたのです。
品質不良というトラブルで、製造工程や時には設計工程まで戻る必要がある重大事故です。
お客様も含めて原因の分析と対応策に頭を悩ませていたとき、グループ企業の先輩上司であるマネージャーが一冊の本を持ってきました。「これにヒントになることが書かれている。『うそうむそう』ではだめだ!目の前に大勢の人がいて、仕事を行っていると何とかなるのではないかという気持ちになるが、それは大きな錯覚。このまま先に進めても収束はしない。即刻、品質強化策を策定する必要がある。担当者それぞれの能力に応じた役割を設定しなおそう」という決断でした。この決断のキッカケになったのがこの言葉です。
智慧と知識の活用と決断、人にしか出来ない事です。
『東京IT新聞 「IT坊主の無駄方便」』より抜粋編集